山田風太郎『戦中派不戦日記』

予想というものは、一般に希望の別名であることが多い。希望とは自分の利益となる空想である。従って、これを逆にいえば「あいつは大した人間にはなれないだろう」などよく人は断言するが、これはその「あいつ」なるものが評者にとって不利益な人間であることが分ったときに発せられることが多い。銘々が心に振返って見るがよい。この野郎、将来小人物になるに過ぎんわい、など思うのは、たいてい癪にさわった――つまり自分の不利益になったときにきまっている。