多和田葉子「「新ドイツ零年」と引用の切り口」(「現代思想臨時増刊号 ゴダールの神話」所収)

むしろ、書物という、紙で出来た奇妙なオブジェは、スクリーンの上では消されるべき運命にある。それをゴダールがあえて大映しにするのは、引用が引用であることを目に見えるようにすること自体に重要な意味を認めているからに違いない。書物は、破壊されたベルリンの壁のかけらと似ている。だからブランデンブルク門の下でがらくたを売る男は、壁のかけらといっしょに書物も売っているのだ。