ヘーゲル『精神現象学』(長谷川宏 訳)

「いま」はまさに「このいま」として示される。が、示された「いま」はもう「いま」ではない。いまある「いま」は示された「いま」とは別の「いま」であり、こうして、「いま」とは、いまあるがゆえにもういまではないようなものだとわかる。わたしたちに示される「いま」は、「いま」であったものであり、それが「いま」の真理なのだ。いまあることが真理なのではなく、いまであったことが真理なのだ。しかし、いまであったものは、実のところ、いまの本質ではない。それはもうないものだが、「いま」の本質は「ある」ことにあるのだから。

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