ミシェル・ウエルベック『素粒子』(野崎歓 訳)

何と言っても、女の方が男より善良なのだ。女の方が優しく、愛情に満ち、思いやりがあって温和。暴力やエゴイズム、自己主張、残酷さに走る度合いが男よりは低い。そのうえより分別があり、頭がよく、働き者である。
 結局のところ、とミシェルはカーテンに射す陽光のゆらめきを眺めながら考えた。男は何の役に立っているんだろう。大昔、まだ熊がうじゃうじゃいたころならば、男らしさは特別な、他に代えがたい役割を演じていたのかもしれない。だが数世紀来、男はもはや明らかにほとんど何の役にも立っていないように思える。