ルソー『告白』(桑原武夫 訳)

かりそめにも学問がほんとうにすきな人であれば、それと取り組んでまず感じるのは、多くの学問がたがいにひきつけあい、助けあい、照らしあい、そして一つの学問は他の学問なしではすまされぬ、という相互の関連性である。もちろん、人間の精神はあらゆる学問をきわめることはできず、つねになにか一つを専門に選ばなければならないが、他の学問についてもなんらかの理解がなければ、往々にして専門の分野にも暗くなるものである。わたしは、自分のくわだてたことは、それ自体としては立派で有益なものであり、ただ方法を変えさえすればいいのに気づいた。最初に学問全体をとりあげ、つぎに各分野に分け入ろうとしたのだが、実はその逆をやるべきだったのだ。つまり、まず個々の学問をとりあげ、それらが関連をもつようになるまでひとつひとつ追求していくべきであった。そこでわたしはありきたりの綜合法にもどった。だが、自分が何をやっているかをよくわきまえている人間としてそこにもどったのである。