柄谷行人「場所と経験」

 私は「人間」について多くのことを知っている。しかし、私が実際に知っているのは数えられるほどの少数の人間である。しかも、彼らを本当に知っているかといえば疑わしい。「人間」に関するどんな理念も、これらの生きた他者を説明できはしない。そして、これらの生きた他者を見ずして、私は「人間」について何を知ることができるだろうか。