デフォー『ロビンソン・クルーソー』(平井正穂 訳)

私はいった。「もし神が自分を捨てたまわないとすれば、たとえ全世界が自分を捨てても、それがどんな不幸な結果をひきおこすというのか。どんな意味があるというのか。だがその反対の場合はどうか。もし自分が全世界をえても、神の恩寵と祝福を失えば、これ以上の損失はないではないか。」
 この瞬間から私がかたく心のなかでいだくようになった信念は、もし自分がこの世間でなにかほかの境遇にあればたぶん幸福になれたかもしれないが、この世間から見捨てられた孤独の生涯にあってもなおそれ以上に幸福になれる可能性がある、ということであった。