レイモンド・チャンドラー『さらば愛しき女よ』(清水俊二 訳)

「男って、みんな、くだらない動物なのね」と、彼女はいった。「だいたい、世の中がくだらないんだけど」
「金があれば、ちがうだろう」
「お金がないと、誰でもそう思うわ。でも、お金ができると、新しい苦労が生まれるのよ」彼女は謎のような微笑をもらした。「そして、お金がなかったときの苦労がどんなに辛かったか、すっかり忘れてしまうんだわ」