高橋源一郎『文学じゃないかもしれない症候群』

ぼくたちは、その「敵」のことを「他者」ということばで表現している。そして、その敵に寄せる思いを、「他者への想像力」と呼んでいる。おのれの「正義」しか主張できぬ不遜なもの書きの唯一のモラルは「他者への想像力」である。だが、そのいいかたはすでにきれいごとであろう。必要なのは「威張るな!」のひとことである。最低のもの書きのひとりとして、ぼくはそのことを烈しく願うのである。