安岡章太郎『僕の昭和史』

何年か前に、ウイリアム・フォークナーが日本へやってきたとき、「日本人諸君の苦しみはよくわかる、われわれ南部の者も同じく戦争の敗者だからだ」と言ったのを、僕は何かで読んで覚えていた。フォークナーのいう「戦争」は南北戦争のことだという。百年前のその痛手がまだ治っていないということ、それがどういうことか、僕にはわからなかった。いや、僕には自分自身が第二次大戦の敗者であるということも、実際には良くわかっていないところがある。