蓮實重彦『映画 誘惑のエクリチュール』

鏡を前にした場合のキャメラが、その撮影角度の限定として耐えねばならぬ制度性は、とうぜんのことながら、見つめあう二つの瞳を同時に画面にはとらええないといういま一つの限界となって露呈されることにもなるだろう。キャメラとは、凝視しあう視線に対しては決定的に無力であり、そこで直交しあう視線からは決って外部に排除されるほかはないものなのだ。