レイモンド・カーヴァー「ささやかだけれど、役にたつこと」(村上春樹 訳)

パン屋が孤独について、中年期に彼を襲った疑いの念と無力感について語り始めたとき、二人は肯きながらその話を聞いた。この歳までずっと子供も持たずに生きてくるというのがどれほど寂しいものか、彼は二人に語った。オーヴンをいっぱいにしてオーヴンを空っぽにしてという、ただそれだけを毎日繰り返すことが、どういうものかということを。パーティーの食事やらお祝いのケーキやらを作り続けるのがどういうものかということを。