ポール・オースター『孤独の発明』(柴田元幸 訳)

にもかかわらず、父はそこにいなかった。もっとも深い、もっとも改変不可能な意味において、父は見えない人間だった。他人にとって見えない人間、おそらくは自分自身にとっても見えない人間だった。父が生きているあいだ、私は父を探しつづけた。そこにいもしない父親を探し求めた。そして父が亡くなったいま、私は依然、父を探しつづけねばならないと感じている。死は何も変えていない。唯一のちがいは、時間がなくなってしまったことだけだ。