H.J.アイゼンク『精神分析に別れを告げよう――フロイト帝国の衰退と没落』(宮内勝 他 訳)

自然寛解がよく起こることからも分かるように、患者はいずれよくなるので、患者はその改善を治療のおかげと思い、治療者もおなじように考えます。治療と改善には何の関係もないのですが。この満足のゆく状態が達成されると、患者は「治癒」したとして片づけられ、その後しばしば悪化することがあるにしても、治療者は関心を持たず、治療者の確信はゆるがないのです。こういう迷信はなかなか取り除きにくく、根拠のない固執と推論や実験に対するかたくなさから、そうした迷信が不合理な起源を持つことがよく分かるでしょう。心的障害の不合理で情緒的な領域に、科学的で合理的な考え方を持ち込んだと主張した精神分析家が、こうした条件づけられた迷信にとらわれているというのは、心理学の愉快なパラドックスのひとつです。そして、彼らが自分たちの理論の正しさと方法の有効性を一般のひとびとに信じこませることができたこともまた、この時代の奇跡のひとつです。