小泉文夫『日本の音』

しかし音楽は反面、限られた社会や地域の中で伝統的に組み立てられた独自の体系を持っており、この体系は単に偶然的に立てられたものでも、音楽だけの範囲で抽象的につくり出されたものでもない。その国、その民族の言語や習慣や思想、信仰そしてひろく社会の中で、互いに他の要素とからみあって産み出されてきたものである。したがって音楽こそ、その真の理解を得るためには、この体系自体の深い認識なくして本当の内容を理解することのできない芸術形式なのである。この点にくらべれば、絵画をはじめ造形美術や、舞踊の方が、はるかに具象性をそなえた表現を基礎としているだけに、国際的な要素を持っているとさえいえるのである。