説経節「山椒太夫」

三郎に、鋸が、渡る。邪慳なる三郎が、この鋸を、奪(ば)い取って、「卑怯なりや、かたがた。主(ぬし)の科(とが)をば、のたまわで、われらが科と、あるからは、のういかに、太夫殿、一期(いちご)(一生の間)申す、念仏をば、いつの用に立て給うぞ。このたびの用に、御立てあれ。死出三途の大河をば、この三郎が、負い越して、参らすべきぞ」。一(ひと)引き引きては、千僧供養(せんぞうくよう)、二引き引いては、万僧供養、えいさらえいと、引くほどに、百に余りて六つのとき、首は前にぞ引き落とす。