「昔の仲間」小沼丹

 暗い長いトンネルがあって、トンネルを出てみたら、いつの間にか座席のあちらこちらに空席ができていて、座席の主は帰って来ない。棚の上に残されたのは、追憶というトランクだけである。伊東の座席も空席のままついにふさがらない……。雨に濡れる青葉を見ながら、そんなことを考えていたように思う。