「ねずみ花火」向田邦子

 ただ何かのはずみに、ふっと記憶の過去帳をめくって、ああ、あの時こんなこともあった、ごく小さな縁だったが、忘れられない何かをもらったことがあったと、亡くなった人達を思い出すことがある。
 思い出というのはねずみ花火のようなもので、いったん火をつけると、不意に足許(あしもと)で小さく火を吹き上げ、思いもかけないところへ飛んでいって爆(は)ぜ、人をびっくりさせる。