「余白」幸田文

 まぬけ鏡は裏返した畳の目と白々と薄手な天井板を映して、つくねんと邪魔っけに居すわって、三日過ぎ四日過ぎた。私はせめてその裸の表へ覆いをかけてやろうと思いたち、物差しを取った。測っていると、ふと余白があるなと気がついた。ちまちまと、いつこうなったのか急に幅も丈も急に縮まったようで、私は鏡のなかに納まりすぎるくらい納まっている。鏡の余白は憎いほど秋の水色に澄んでいる。