「阿部一族」森鷗外

風鈴が折々思い出したようにかすかに鳴る。その下には丈の高い石の頂を掘りくぼめた手水鉢がある。その上に伏せてある巻物のひしゃくに、やんまが一匹止まって、羽を山形に垂れて動かずにいる。
 一時(ひととき)立つ。二時(ふたとき)立つ。もう午(ひる)を過ぎた。