「老年」藤沢周平

センチメンタルで甘い歌声や歌詞の一節にふと胸をつまらせたりする。だが胸がつまるのは感傷のせいではない。帰らない青春といった感傷の中には、まだ現在と青春をつなぐみずみずしい道が通じているだろう。だが老年の胸をつまらせるのは喪失感である。道はもう通じていない。あるのは眼前の日日だけのように思われることがある。