2010-09-14 「斜陽」太宰治 孫引き引用 朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、 「あ」 とかすかな叫び声をおあげになった。 「髪の毛?」 スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。 「いいえ」 お母さまは、何事もなかったように、またひらりと一さじ、スウプをお口に流し込み、すましてお顔を横に向け、お勝手の窓の、満開の山桜に視線を送り、そうしてお顔を横に向けたまま、またひらりと一さじ、スウプを小さなお唇のあいだに滑り込ませた。