「沈黙博物館」小川洋子

 カーテンに映る窓の色は、刻々と変わっていった。闇が次第に薄れ、群青色が混じり、やがてそれも縁(ふち)から溶け出していった。風も雪も止んでいた。
 一段と長く喉が鳴った。目蓋(まぶた)の下で眼球が微(かす)かに動き、唇が震え、老婆は最後の息を吐き出した。
 三人は老婆の身体(からだ)から手を離し、目を伏せて祈った。僕は立ちあがってカーテンを開けた。雪の照り返しを受けていっそう鮮やかにきらめく朝日が、一筋老婆の死顔(しにがお)に射し込んだ。