「街の灯」岩本素白

同じ町並みに塩湯があって、そこから出て来たらしい三四人連れの女達が何か睦まじげに物語りながら、宵闇に白い浴衣を浮かせて通り過ぎたが、そのあとにはおぼつかない白粉(おしろい)の匂いが、重い夜気(やき)の中にほのかに漂っていた。それから、掘割(ほりわり)について明石町(ちょう)の河岸(かし)に出て、暗い水を行く小舟の灯を見送ったり、川口にかかっている帆前船(ほまえせん)の灯を眺めたりして家へ帰ったのであるが、中一日を隔ててあの大地震であった。