「蚊帳」永井龍男

 みんな寝静まった真夜中に、闇の底がほんのり明るんで、また暗くなる。その時蚊帳の釣ってあるのが見えるのは、眠れぬ誰かが寝床で一服したのである。やがて、はいふきをたたく音がして、静けさが戻ってくる。あるいは、うちわを使う気配とか、蚊の鳴き声が闇の中にするかも知れない。