ゲーテ「花婿」(全) (高橋健二 訳)

真夜中に私は眠っていたが、胸の中では、
思う人恋しの心が覚めていた、昼間に変らず。
しかも昼間は夜のように思われた――
昼間は色々なことがあろうと、それは何だろう?


あの人がいなかったのだもの! 私はまめな努力を
あの人ひとりのために忍んだのだ、昼の暑熱も
いとわずに。それだけ涼しい夕方にはどんなに
元気づけられたろう! うれしく報いられて。


日は沈んだ。手に手をとって固く結ばれ、
私たちは最後の祝福のまなざしにあいさつした。
目は目にはっきり注がれて言った。
「東から日はもどって来ますとも」と。


真夜中に星の輝きが導いて行く、
やさしい夢の中であの人の休んでいる部屋の入口へ。
ああ、私もあそこで休めるようにしておくれ!
ともあれかくもあれ、人生はよい!