森鷗外「團子坂」

男。あなたはいつでも清い交際といふことを言つてゐるでせう。あの清いといふのが、情緒の薄明(うすあかり)で見るから、清いのです。僕はわざ/\強い、caustic(コオスチック)な藥(くすり)なんぞを使つて分析するのではありません。唯(ただ)自ら欺きたくないのです。僞善者になりたくないのです。あなたが僕の傍に來て、いくら堅くしてゐたつて、僕の目はあなたの體(からだ)のどんな線をだつて見ます。そしてあなたはそれを防ぐことは出來ないのです。