松浦寿輝『折口信夫論』

 漢字とは、生身の裸体のことなのだ。たとえば、漢詩を読んだり書いたりすることが夏目漱石にもたらした慰藉の意味などを考えてみてもよかろうが、日本語を母国語とする個体にとって、仮名を伴わぬ裸形の漢字には、どこかエロティックなところがある。仮名は、このなまの露出をくるみこみ、真白な裸体の輝きを遮るための布であり、奔騰するリビドーを文化の側に取りこむための装置なのである。

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