2008-09-08 佐藤春夫「愚者の死」(全) 引用 千九百十一年一月二十三日 大石誠之助は殺されたり。 げに厳粛なる多数者の規約を 裏切る者は殺さるべきかな。 死を賭して遊戯を思ひ、 民俗の歴史を知らず、 日本人ならざる者 愚なる者は殺されたり。 『偽より出でし真実(まこと)なり』と 絞首台上の一語その愚を極む。 われの郷里は紀州新宮。 渠の郷里もわれの町。 聞く、渠が郷里にして、わが郷里なる 紀州新宮の町は恐懼せりと。 うべさかしかる商人(あきうど)の町は歎かん、 ――町民は慎めよ。 教師らは国の歴史を更にまた説けよ。