李白「子夜呉歌(しやごか)」(抄) (齋藤晌)

長安一片の月、
萬戸衣を擣つ聲。
秋風吹いて盡きず。
總て是れ玉關の情。
何れの日か胡虜を平げて、
良人 遠征を罷めん。


ちゃうあんいっぺんのつき、
ばんこころもをうつこゑ。
しうふうふいてつきず。
すべてこれぎょくくゎんのじゃう。
いづれのひかこりょをたひらげて、
りゃうじん ゑんせいをやめん。


長安一片月
萬戸擣衣聲
秋風吹不盡
總是玉關情
何日平胡虜
良人罷遠征


長安の空にただ一つ澄みわたった月が出て、全市街を照らしている。あちらでも、こちらでも、衣をうつ砧(きぬた)の音が聞こえる。秋だな! ざわざわとたえまなく、風が吹いている。これは、あの遠い西のはてにある玉門關あたりから吹いてくる風だ。屈強な男子たちは徴集されて、あそこの戰場へ行っているのだ。砧で絹をうって冬着の準備をしている女たちは、みんな「自分の夫は、いつになったら外敵を擊退して歸ってきてくれるのかしら」と案じ顔。大きい長安の都は、月の光のさえる全市街に、秋風の吹きとおる家ごとに、そんな感じでいっぱいだ。