李白「臨路(臨終)の歌(りんろ(りんじゅう)のうた;臨路歌)」(全) (青木正兒)

大鵬飛んで八裔に振ひ
中天に摧けて力濟はず。
餘風は萬世に激し
扶桑に遊んで石袂を挂く。
後人 之を得て此を傳ふ
仲尼亡びたるかな誰か爲に涕を出さん。


たいほうとんではちえいにふるひ
ちゅうてんにくだけてちからすくはず。
よふうはばんせいにげきし
ふさうにあそんでせきべいをかく。
こうじん これをえてこれをつたふ
ちゅうじほろびたるかなたれかためになみだをいださん。


大鵬飛兮振八裔
中天摧兮力不濟
餘風激兮萬世
遊扶桑兮挂石袂
後人得之傳此
仲尼亡乎誰爲出涕


 大鵬が飛んで八方に勢を振ったが、中天(なかぞら)に翼が摧(くだ)けて自分では救濟できなくなった。餘風は萬世(よろづよ)までも激(はげま)すであらうが、身は扶桑に遊び左の袂を木に引掛けて動けなくなった。後の人が此の鳥を得て世に傳へても、孔子が死亡してしまった現今、誰が大鵬の爲に涕(なみだ)を流してくれようか。