杜甫「高式顔に贈る(かうしょくがんにおくる;贈高式顔)」(全) (目加田誠)

昔 別れしは是れ何れの處ぞ
相逢へば皆老夫なり
故人 また寂寞
迹を削られて共に艱虞
文を論ずる友を失ひてより
空しく知る 賣酒の壚
平生 飛動の意
爾を見ては無きこと能はず


むかし わかれしはこれいづれのところぞ
あひあへばみならうふなり
こじん またせきばく
あとをけづられてともにかんぐ
ぶんをろんずるともをうしなひてより
むなしくしる ばいしゅのろ
へいぜい ひどうのい
なんぢをみてはなきことあたはず


昔別是何處
相逢皆老夫
故人還寂寞
削迹共艱虞
自失論文友
空知賣酒壚
平生飛動意
見爾不能


 君と昔、お別れしたのは何処の地であったろう。今こうして逢ってみると、お互いにみな老人になってしまった。昔なじみの君もいっこううだつがあがらぬようで、お互いに官を逐(お)われて難儀をしている次第だ。昔ああして酒をのんで酒をのんで文学を論じ合った友もいなくなってからは、酒場のあるのは知りながら、行ってみる気にもなれない。だが今ふたたび君を見ていると、いつも心の底にひそんでいる鬱勃たる精神が、わき起こって来ぬわけには行かぬ。