白樂天「李夫人(りふじん)」(抄) (田中克己)
生にもまた惑ひ、死にもまた惑ふ
尤物 人を惑はして忘れ得ず。
人は木石にあらずみな情あり
しかず傾城の色に遇はざらんには。
せいにもまたまどひ、しにもまたまどふ
いうぶつ ひとをまどはしてわすれえず。
ひとはぼくせきにあらずみなじゃうあり
しかずけいせいのいろにあはざらんには。
生亦惑 死亦惑
尤物惑人忘不得
人非木石皆有情
不如不遇傾城色
生きているときも惑わし、死んでもまどわして
美人は人をまどわして忘れなくさせる。
人間は木でも石でもなく情があるので
いっそ傾城の美になどあわない方がましだ。