陸游「兒(じ)に示す」(全) (前野直彬)

文は能く骨を換ふ 餘に法無し
學は但源を窮めて自ら疑はず
齒は豁く頭は童にして方めて此を悟る
乃翁事を見ること 憐れむ可く遲し


ぶんはよくほねをかふ
がくはただみなもとをきはめてみづからうたがはず
ははひろくかうべはどうにしてはじめてこれをさとる
だいをうことをみること あはれむべくおそし


文能換骨餘無法
學但窮源自不疑
齒豁頭童方悟此
乃翁見事可憐遲


 文学というものは、先人の作品を読んで、その骨格を入れかえて作ることができればよい。そのほかに文学の方法などというものはない。学問はただ根源をきわめさえすればよい。それ以外に学問の道があるかなどと、疑いを持たないことだ。――歯は抜け落ち、頭も禿げたこの年になって、やっとこれだけのことを悟った。ああ、おまえたちのおやじは、何事につけても、まったくのろまな男だよ。