杜牧「秦淮に泊す(しんわいにはくす;泊秦淮)」(全) (市野澤寅雄)

煙は寒水を籠め月は沙を籠む
夜秦淮に泊して酒家に近し
商女は知らず亡國の恨
江を隔てて猶唱ふ後庭花


けむりはかんすゐをこめつきはさをこむ
よるしんわいにはくしてしゅかにちかし
しゃうぢょはしらずばうこくのうらみ
かうをへだててなほとなふこうていくゎ


煙籠寒水月籠沙
泊夜秦淮近酒家
商女不知亡國恨
隔江猶唱後庭花


 煙は寒水に立ちこめて月光は沙上に広寒の影を投げている。秦淮(しんわい)まで来て夜一泊することになったが宿は酒家に近かった。そこで妓女の歌う後庭花(こうていか)の曲が川越しに聞こえて来るが、歌う当人はこの歌曲の来歴も知るまい。この一曲に亡国の恨みが籠っているとは気もつくまい。