吉橋通夫「筆」

 せまい。
 建っていた家がなくなり、こうしてあき地になってしまうと、胸が痛くなるほどせまい。五、六歩あるくだけで、となりの家にぶつかってしまう。ほんとうにこんなところで、毎日、ねておき、食べ、走りまわり、どなられ、うらみ、ないていたのだろうか。みんなうそのように思えてくる。