王安石「北山(ほくざん)」(全) (今關天彭、辛島驍)

北山 緑を輸って 横陂に漲る
直も 囘塘を塹って 灎灎の時
細かに落花を數ふるは 坐すること久しきに因る
緩かに芳草を尋ぬれば 歸ること遲きを得たり


ほくざん みどりをおくって わうひにみなぎる
あたかも くゎいたうをほって えんえんのとき
こまやかにらくくゎをかぞふるは ざすることひさしきによる
ゆるやかにはうさうをたづぬれば かへることおそきをえたり


北山輸緑漲横陂
直塹囘塘灎灎時
細數落花因坐久
緩尋芳草得歸遲


 北の鐘山から、春の緑がずっと、家の前の土手の方までつづいている。ちょうどこの間、ぐるっと掘割をつくったばかりで、今やそこにたたえた水に春風が小さな波をただよわせているのである。
 ちらりほらりと散ってゆく落花を、細やかに数えたりするのは、落ちついて、その辺りにいつまでも坐りこんで、心ゆくばかり春景色をながめているうちの仕事で、また花を咲かせている草を、一つ一つ楽しみにあちらこちらとゆっくり訪ね歩くのものだから、しぜん部屋へもどるのも、おそくなるというわけである。わたしは、山から新しいわが家へかけての春のすがたを、のんびりと味わい楽しんでいる。