韓愈「雜詩」(抄) (原田憲雄)

古史 左右に散じ
詩書 後前に置く
豈に殊ならむや 蠧書蟲の
文字の間に生死するに
古道は自らを愚憃にし
古言は自らを包纒す
當今は固より古しへと殊なれり
誰と與にか欣歡をなさむ


こし さいうにさんじ
ししょ こうぜんにおく
あにことならむや としょちゅうの
もんじのあひだにせいしするに
こだうはみづからをぐたうにし
こげんはみづからをはうてんす
たうこんはもとよりいにしへとことなれり
たれとともにかきんくゎんをなさむ


古史散左右
詩書置後前
豈殊蠧書蟲
生死文字間
古道自愚憃
古言自包纒
當今固殊古
誰與爲欣歡


古代の歴史の巻々は左右に散らばり
詩経』『書経』のたぐいを前後において……これではいったい
文字 文字 文字 の中に生き そして死んでゆくあの紙虫(しみ)と どこが違うのだ
いにしえの道 そいつはわしを愚直にしたばかり
古人のことば それはわしをガンジガラメにしただけではないか
現代というやつは てんで 昔とは違うのだ
そんなら わしのような人間は たれと よろこびを分かてばよいのか