「かみなりむすめ」(斎藤隆介・作/滝平二郎・絵)

茂助は すわりなおして おシカと むかいあった。
じゃ、いいか! それ!


 セッセッセ
 一に たちばな
 二に かきつばた


茂助の こえにあわせて おシカも うたいながら、手を片(かた)かたずつ
チョンチョンと うちあわせ はじめた。ときどき 手の甲を
チョンチョンと うちあわせることもあった。


 五つお山の 千本ざくら
 六つむらさき ききょうにそめて……


そうやっているうちに、おシカは むねが あまァくなって、
目から ポロポロッと なみだが こぼれてきた。
かなしいのでは ない。たのしいだけでも ない。
茂助のやさしさが、手をうちあわせるごとに
からだに しみとおって くるのだ。