エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』(日高六郎 訳)

多くのひとびとは、なにかをするときに、外的な力によって明らかに強制されないかぎり、かれらの決断は自分自身の決断であり、なにかを求めるとき、求めるものは自分であると確信している。しかしこれは、われわれが自分自身についてもっている一つの大きな幻想である。われわれの決断の大部分は、じっさいにはわれわれ自身のものではなく、外部からわれわれに示唆されるものである。決断を下したのは自分であると信ずることはできても、じっさいには孤独の恐ろしさや、われわれの生命、自由、安楽にたいする、より直接的な脅威にかりたてられて、他人の期待に歩調を合わせているのにすぎない。