エリアーデ『永遠回帰の神話』(堀一郎 訳)

ほとんどいずれのところでも、われわれは苦を生ずるのに直接介在したか、もしくは苦を惹起するのに悪魔的あるいは神的な他の力の介入を許したかはさておいて、苦は神の意志に基くとする古代的観念(単純文化人の間で支配的な)に出会うのである。収穫の破壊、旱魃、敵による都市の略奪、自由や生活の喪失、あらゆる災害(疫病、地震、等)――は、いろいろの仕方で必ず超越者に、神の摂理によるとの説明とその弁明を見出そうとする。占領された都市の守護神は、勝った軍隊の神より力強くなかったとか、社会全体として、あるいは個々の家族としての儀礼上の過失があの神、またこの神に対して犯されたとか、あるいは呪文や悪魔や不注意や呪詛が必然の結果として伴っているとか――個人的ないし集団的な苦悩はつねにその解説を持っている。従ってこの苦悩は堪え忍ばれるし、堪え忍ばれ得るのである。

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