アンナ・アフマートワ「ヒーローのいない叙事詩」(抄)(江川卓 訳)

・せめていまは答えてちょうだい、
                   いったい
 あなたはいつか本物の生を生きたことがあるの?
    まぶしいばかりの美しくかわいい足で、
       広場の木煉瓦を踏みしめたことがあるの?……


・      (どれほどの死が詩人を訪れたことか、
       おろかな少年よ、彼もまた死を選んだ、――
       はじめての恋の傷手にたえられず、
       どんな境界に自分が立っているかも、
       その前途にどんな眺望が開けているかも、
       少年は知らなかったのだ……)


・わたしの扉を叩く者は一人としてなく、
 ただ鏡が鏡を夢見るばかり、
 静寂が静寂を見張るばかり。