「エミリー」(マイケル・ビダード ぶん/バーバラ・クーニー え/掛川恭子(やすこ) やく)

・「詩ってなあに?」わたしがききました。
 パパは、しおれたはなびらをてのひらにのせました。
 「ママがピアノをひいているのをきいていてごらん。おなじ曲を、なんどもなんども練習しているうちに、あるとき、ふしぎなことがおこって、その曲がいきもののように呼吸しはじめる。きいている人はぞくぞくっとする。口ではうまく説明できない、ふしぎななぞだ。それとおなじことをことばがするとき、それを詩というんだよ」


・わたしはその人のそばにいきました。
 わたしたちはふたりとも、雪とおなじまっ白いふくをきていました。
 わたしはその人のひざの上の紙をみおろして、ききました。
 「それ、詩なの?」
 「いいえ、詩はあなた。これは、詩になろうとしているだけ」その人の声は風のようにかろやかで、はかなくて、まどべにならべたブルーベルのようでした。
 「わたし、春をもってきてあげたの」わたしがいいました。


・天国をみつけられなければ――地上で――
 天上でもみつけられないでしょう――
 たとえどこへうつりすんでも
 天使はいつもとなりに家をかりるのですから――
                       愛をこめて
                          エミリー