ヨシフ・ブロツキー

   「ジョン・ダンにささげる悲歌」(抄)(川村二郎 訳)


・だが聞くがよい! きこえてはこないか かしこ 冷たい
  闇の中で
 だれかが泣いているのが 不安げにささやいているのが


・どの水車にこの水をそそごうとも
 この世に生みだされるのは いつも同じパン
 われらの生をわかつ者がいようとも
 だれがわれらの死を ともにわかつだろう

   「動詞」(抄)(小平武 訳)


・わたしを取囲む寡黙な動詞たち
 他人の頭に似た
           動詞
 飢えた動詞 裸の動詞
 主だった動詞 つんぼの動詞たち


 名詞のない動詞 動詞――おっと これはただの動詞
 地下で暮す動詞たちが
 語るのは――地下
            生れるのも――地下
 世の普遍的なオプチミズムの数階下だ


・他人の記憶へ遠ざかるように 遠ざかり
 語から語へ均一な歩調で歩みながら
 そのあらゆる三つの時を通過して
 動詞たちはある日ゴルゴタへ登る


・誰もやって来ないだろう 誰も代ってはくれまい
 槌の音は
 永遠のリズムとなろう
 大地の誇張法(ギペールボラ)が彼らの下に横たわる
 隠喩の空が彼らの上を泳いで行くように

   「愛」(抄)(小平武 訳)


ぼくらはそこで夫婦であり 婚姻している ぼくらはかの
二つ背の怪物 子供たちは
ぼくらの裸の弁明にすぎない