2014-10-23から1日間の記事一覧

三好達治「鮎鷹」

もうそこここには早咲きのダリアの花がまっ赤に咲いている。去年その花のふんだんに咲いていた垣根のあたりを通りすがりに、ふとそう思って眼をとめると、今年もまたそこにその花が一輪二輪はや咲きはじめていて、その庭は丁度去年と同じようなあんばい風(ふ…

薄田泣菫「蔬菜の味」

肥(ふと)り肉(じし)の女が、よく汗ばんだ襟首を押しはだける癖があるやうに、大根は身体中の肉がはちきれるほど肥えてくると、息苦しさうに土のなかに爪立ちをして、むつちりした肩のあたりを一、二寸ばかり畦土(あぜつち)の上へもち上げてくる。そして初冬…

夏目漱石『草枕』

山路を登りながら、かう考へた。 智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟つた時、詩が生れて、画(え)が出来る。 人の世…