2015-03-23から1日間の記事一覧

細見綾子

女身仏(にょしんぶつ)に春の剥落つづきをり

葛原妙子

あやまちて切りしロザリオ転がりし玉のひとつひとつ皆薔薇

谷崎潤一郎「蘆刈」

まだをかもとに住んでゐたじぶんのあるとしの九月のことであつた。あまり天気のいゝ日だつたので、ゆふこく、といつても三時すこし過ぎたころからふとおもひたつてそこらを歩いて来たくなつた。遠はしりをするには時間がおそいし近いところはたいがい知つて…

谷崎潤一郎「蓼喰ふ虫」

美佐子は今朝からときどき夫に「どうなさる? やつぱりいらつしやる?」ときいてみるのだが、夫は例の孰方(どつち)つかずなあいまいな返辞をするばかりだし、彼女自身もそれならどうと云ふ心持もきまらないので、ついぐづぐづと昼過ぎになつてしまつた。一時…

谷崎潤一郎「痴人の愛」

私は此れから、あまり世間に類例がないだらうと思はれる私たち夫婦の間柄に就て、出来るだけ正直に、ざつくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思ひます。それは私自身に取つて忘れがたない貴い記録であると同時に、恐らくは読者諸君に取つても、き…