2015-06-10から1日間の記事一覧

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「だれもそんな人いないわ、ほんとうのことを言う人なんて。ほんとうのことを考えだしたら、気違いになってしまうわ。そんなことを彼に話したりしたら、損をするのは自分よ……」

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

わたしはよく、このわたしたち二人のあいだからどんな子供が生まれるのだろうか、と考えた――彼女のあの艶(つやや)かで硬い腰、牛乳とオレンジ・ジュースをたっぷり吸いこんだあのブロンドの下腹と、このわたし、濃いわたしの血とのあいだから。二人とも、ど…

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

あのころのすばらしい点は、いっさいが季節によって行われ、その季節の一つ一つに、仕事や収穫の種類に応じた、あるいは雨か天気にしたがった習慣や遊びがあることだった。冬には、泥がついて重くなった木沓をはき、手をかじかませ、鋤を押して痛む背をのば…

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「なんだと思ってるんだい? お月さまはみなのためにあるんだし、雨だってそうだし、病気だってそうさ。穴倉に住んでいようと、宮殿に住んでいようと、血はどこに行っても赤いのさ」

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「何をこわがっているんだい?」と、彼はわたしに言うのだった。「ものごとは、それをやりながらおぼえるものだよ。その気を起しさえすりゃいいんだ……。もしぼくが間違ってるなら、言ってくれよ」

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「そうとも、そうとも、若い衆、そうとも、そうとも、娘さんたち……大人になることを考えなさい……わしらの祖父(じい)さんたちはこう言ってたよ……あんたがたの番になったら、わかることだろうて」そのころには、大人になるとはどういうことか想像もできなかっ…

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

しかし夢想家ではないわたしは、結局、季節がものを言うことを知っていた。季節とはきみの血となり肉となっているもの、子供のころに食べてしまったものなのだ。

パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

わたしにとって、過ぎ去って行ったのは季節であって、歳月ではなかった。