2015-12-09から1日間の記事一覧

谷川俊太郎「牧歌」

陽のために 空のために 私は牧歌をうたいたい 人のために 土のために 私は牧歌をうたいたい 真昼のために 深夜のために 私は牧歌をうたいたい 名も知らぬ若木の下に立ちどまって 虻の羽音に耳をすまし 陽のささぬ路地の奥で 子供の立小便をみつめていたい う…

クロード・シモン『アカシア』(平岡篤頼 訳)

したがって彼がまともに自問することができるすべてと言えば、せいぜい最初のゼロの右側の小数点のあとにどれだけゼロを並べてからどんな少数の数字、この二十六年のあいだに彼にとって生起したことに掛けるのに(つまり、割るのに、その本来のサイズにもど…

クロード・シモン『アカシア』(平岡篤頼 訳)

箱のなかみたいに鉄道列車の車室の内部の冷えた石炭の臭いのするシートに横たわって、今ではなにか強烈な化学反応、対立矛盾する物質のなにか硫黄臭い沸騰の名残りとさえ言えない、怠惰と呑気な無気力の――せいぜい言って優柔不断な期待の、二十六年という歳…