谷川俊太郎「空の噓」

空があるので鳥は嬉しげに飛んでいる
鳥が飛ぶので空は喜んでひろがっている
人がひとりで空を見上げる時
誰が人のために何かをしてくれるだろう


飛行機はまるで空をはずかしめようとするかのように
空の背中までもあばいてゆく
そして空のすべてを見た時に
人は空を殺してしまうのだ
飛行機が空を切って傷つけたあとを
鳥がそのやさしい翼でいやしている
鳥は空の噓をしらない
しかしそれ故にこそ空は鳥のためにある


〈空は青い だが空には何もありはしない〉
〈空には何もない だがそのおかげで鳥は空を飛ぶことが出来るのだ〉