クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

というわけでもしかしたら彼女が彼のうちに道具(いわば男根のかたちをした陽物神的なちょうどあのなんといったかな日本の人妻たちが踵にしばりつけ、東洋人のいささかアクロバット的な性の技巧に特有の窮屈な姿勢でその上に坐り、それでわが身を裂き、彼女たちのなかに挿入する(そしてからだのすき間をみたす)あの男性の誇り高く不敵な代用品みたいなもの)しか見なかったのかもしれないのでそれは主従という隷属関係のおかげでまた彼女が肉体の基本的欲求をしずめたいと望むときいつでも容易に手にできるという便宜のおかげでいかにも重宝な道具だったがただそれがしずめたのはあるいは精神の欲求――挑戦報復復讐といった欲求――だったかもしれずそれもたんに彼女を妻にし(買いとり)彼女を自分の所有物だと称した男ばかりでなくさらには彼女が憎悪していたひとつの社会階級教育慣習原則にたいする復讐の欲求で